目を覚ませ見本文
朝の首里城は、観光客が来る前の一時間だけ、別の場所になる。
女は毎日その一時間に石段を上った。手には小さな水晶の玉。拝所の前で目を閉じ、祈りの言葉を三回くり返す。それで何かが叶うと、半分は信じていた。
その朝、言葉の途中で声がした。
「目を覚ませ」
振り向いても、誰もいなかった。石垣の上で、夜明け前の青が少しずつ桃色にほどけていくだけだった。
封印は、外からかけられたものではなかった。
首里城が燃える半年前。毎日、拝所に通う女がいた。
読む →毎週日曜に一話ずつ更新します。
朝の首里城は、観光客が来る前の一時間だけ、別の場所になる。
女は毎日その一時間に石段を上った。手には小さな水晶の玉。拝所の前で目を閉じ、祈りの言葉を三回くり返す。それで何かが叶うと、半分は信じていた。
その朝、言葉の途中で声がした。
「目を覚ませ」
振り向いても、誰もいなかった。石垣の上で、夜明け前の青が少しずつ桃色にほどけていくだけだった。
かつて沖縄には、夢を現実にする技があったとされる。いま残っているのは、その半分だけ。
物語が進むごとに、ここが少しずつ明かされていきます。
沖縄在住。元小学校教員。文化人類学を学び、県内の聖地を歩いてきました。
この物語はフィクションです。登場する聖地は実在しますが、伝承・史実は「そう伝わる」「もしそうだったら」の形で扱っています。